第16話
「はい」
女性は仄かな笑みを浮かべて見つめてくる。シャンプーか柔軟剤か、花のような香りが彼女の存在を印象づけた。焼き魚と味噌汁の匂いもする。
――ちょっと……近いな。
むず痒さを覚えて尻の位置を変える。女性から離れるようにベッドの中央に寄った。
その行動をどう取ったのか、空いたスペースに女性が座った。腰がぶつかる。近いどころではない。
――ひえぇ。
思わず変な声が出そうになるのを押さえる。慌てたのが伝わったのか、女性は可笑しそうに顔を覗き込んできた。その表情は可愛く、透き通るような白い肌と艶やかな唇は艶めかしい。
「具合はいかがですか?」
「え?」
問われて冷静になる。やはりどこか悪いのだろうか。
女性の手が布団の内側で安治の腿を触った。その辺りに傷でもあるのだろうかと思いじっとする。その手が内腿を撫で上げた。慌てて防御する。
「ちょちょちょ」
間に合わなかった。繊細な指先が股間に触れる。
「やめてください」
顔が熱くなるのを感じながら必死に手を押さえる。
拒絶の言葉を聞いて身を固くしたのは女性だった。戸惑った声が発せられる。
「え……?」
一瞬見つめ合う。お互いに困惑している。
「何か……お気に障りましたか?」
――気に障るも何も。
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