第14話

 肩に垂らした髪は品のいいダークブラウンに染め、緩いウェーブをかけている。きれいな肌にきれいなメイク。ピンクベージュのフェミニンなブラウスに膝までの巻きスカート。薄手の黒いストッキングに包まれた細い脚。

 華やかすぎず、でも女性らしい。

 ――美人だ。

 安治は妙な違和感を覚えた。大学にも美人と評判の子はいたけれど、それと雰囲気が違う。何だか芸能人のような、隙のない感じがする。完璧すぎて近寄りがたいような。

 おそらく年の頃は同じくらい、しかし何をしている人なのだろう――。

 女性は近づいてきながら安治を見て微笑んだ。ベッドの脇で軽く腰を屈めて囁くように告げる。

「ご飯、できましたよ」

「…………」

 安治は返事ができなかった。ほとんどパニックになっていた。

 ――誰?

 知らない相手なのに、まるで親しいような言い方ではないか。

 ――ご飯?

 安治の分を作ってくれたというのか。何故?

 安治がベッドにいるのを見て驚かないということは、いるのを知っていたのだろう。しかし安治はことの発端を覚えていない。いったいいつからここにいたというのか。それにパジャマを着ている……。

 ――病院?

 はっとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る