エロス

第154話

 美少女はタナトスよりもさらに作り物感が強かった。何も知らずに見れば、アニメの等身大フィギュアと思ったかもしれない。

 安治が振り返ったとき、美少女はまっすぐに安治を睨んでいた。

 それが無言のまま休憩室のドアを開けて入ってくる。安治は思わず奥に逃げた。勘違いでなければ――理由はわからないが――怒っている。

 美少女はタナトスをちらと見て、女の子らしく上品な仕草でその隣に腰を下ろした。それでも安治を睨むのをやめない。

「エロス」

 とタナトスが紹介をする。紹介されてもエロスは愛想笑いを浮かべるでもなく、おざなりにでも頭を下げるでもなく、不機嫌さを露わにしている。

 姉と聞いたが、見た目はエロスのほうが幼い。中学生か高校生くらいだ。身長もタナトスと並ぶとかなり小柄に見えた。一六〇センチもないだろう。

 服装がまた幼い。いわゆるゴスロリというやつで、リボンとフリルをあしらった白黒のドレスを着ている。髪型はポニーテールで、長い黒髪を結んだところに大きなリボンを飾っている。顔立ちはタナトスよりも日本人らしく、目は真っ黒だ。

 美少女には違いない。しかし安治には可愛いと思えなかった。妙な威圧感があって怖い。

「あの……初めまして」

 安治は恐る恐る挨拶をする。しないと余計に怒らせる気がしたからだ。

 エロスは馬鹿にするように軽く顎を上げた。安治のほうが背は高いのに見下されている。

「お前が新しい教育係か」

 返ってきたのは挨拶ではなかった。明らかに棘がある。

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