第153話

「安治には家族がいる?」

「本当のってこと? いないんじゃないかな」

 いれば引き合わされていると思う。

「あ……同居してる人はいるけど」

「恋人?」

「……うん」

 返事が遅れたのは照れたからではない。恋人と呼んでいいのか迷ったためだ。迷うということはおそらく、心の底では恋人だと思っていない。いないけれど……恋人でないとも言えない。前日の場面が頭に浮かんだのをすぐに掻き消す。

「恋人、どういう人?」

「うーん……昨日会ったばっかりだから、まだよくわからないな……」

「昨日会ったばかりで恋人?」

 もっともな質問に戸惑う。

「だって……恋人だって言われたから」

 そう答えると、タナトスははっとした表情をした。

「あう。タナトスもエロスを恋人だと言われた。恋人は普通、自分で選ぶもの。しかしタナトスは選んでいない。安治も」

「あ……同じだね」

 妙な共通点が見つかった。

「まあ、すごい美人だけどね。ありがたいことに」

 だから自分は恵まれているのだ、と自分に言い聞かせる。

「あう。エロスもすごい美人」

「そうだろうね」

 タナトスを見ればそれは納得がいく。きっと人形のような美女だろう。

 ――見てみたい。

 何気なく思ったとき、左手小指の指輪が視界の端で光った。あれ? と視線を向ける間にタナトスが「う」と大きめの声を出す。

「エロス」

「え?」

 視線を追って振り返る。休憩室の窓の外に人形のような美少女がいた。

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