第346話
「タナトス。……これ、知ってる?」
意地の悪さを覚えつつ、もらった本を掲げてみせる。
「知ってる」
答えはあっさりしたものだった。慌てる様子はない。
「みんなもらってるみたいだけど、タナトスはもらわないの?」
タナトスは澄ました表情のまま首を横に振った。
「タナトスに関係ない。持って帰っても資源の無駄。もらわない」
「関係ない?」
タナトスは室内を見渡し、まだ安治が踏み入れたことのない奥のほうを指差す。
「安治、空いてるところに座る。向こう」
「あ、うん……」
推測が外れたのだろうか。言ってさっさと歩き出すタナトスを追いかけながら、安治は内心で首を傾げた。
手にしたホットコーヒーが溢れないように水平を維持しつつ、表紙をちらっと見る。お洒落だけれどどこか淫靡な雰囲気のある書体で『娘ランキング』と書かれていた。
体感で一〇〇メートルも歩き、それでもまだ延々と書棚のドミノが続いているところでタナトスは止まった。わざと変化をつけるように向きを変えた低い棚が、八人掛けほどのテーブルを囲んでいる。
「広いんだねえ……」
先客のいないテーブルに座りながら、思わずそんな呟きが漏れる。文芸書、専門書、実用書、雑誌、洋書などに加えて、漫画も古いものから最近のものまで相当数ある。膨大な蔵書を収めるのにはどれだけ面積があっても足りないのだろう。
安治はまだ踏み入れたことがないが、より専門性の高い本を集めた上階と、閉架になっている下の階もあるらしい。
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