第112話

 ――何が怖いんだ?

 ――人? それとも、人に不快な思いをさせること?

 ――不快な思いをさせることではなくて、不快な思いをさせたと気づくことか――。

 安治の自問自答に気づくはずもなく、男物のシャツを見ながらたま子が教える。

「気に入ったのがあったらそのまま持って出ていい。至るところでチェックされてるからな、いちいち申告をする必要はないぞ。持って出た後、返したい場合は房江に渡してくれ。ちなみに部屋からオイコノモスで注文した場合は、エンケパロスか配達ロボットが届けてくれる」

「へえ、配達ロボットがいるんだ。どんなの?」

「いろいろいるぞ。小さいのだと鳥形のが届けてくれるし、大きいのだと台車みたいなのが来るな。自分に直接届けてもらうこともできるし、部屋でオイコノモスに受け取ってもらうこともできる」

「え、便利だね」

 素直に感心した。一人暮らしをしているとき、通販での荷物の受け取りは意外と厄介な問題だったからだ。

 不在時に来られても困るからとコンビニ受け取りや宅配ロッカーをなるべく使ってはいたが、ものによってはそれが指定できない。またあんまり頻繁に使ってコンビニの店員さんに名前を覚えられるのも嫌なので、普段は使わない遠くのコンビニを指定したこともある。

 その時間なら家にいるはずと思って日時指定をしたもののなかなか来てくれず、用事で出かけた直後に不在票が入れられていたこともある。配達員さんが大変なのはわかる。恨まれても仕方ない。しかしこちらもそれなりに努力はしているのだ――と言い訳したくなった。

 宅配は便利なようで不便でもある――そんな経験を踏まえての賞賛だ。

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