第235話

 画面には最初、エレベーターの名前が表示されていた。「ローリングチェストナッツ」。鼻でそれを押す。

 画面が変わり、「トイレ」「研究棟」「居住棟」「玄関」「食堂・休憩室」「娯楽施設」の選択肢が出た。

 ――トイレ?

 なぜ最初に出ているのだろう、と不思議に思ううちに八木さんがそのボタンを押す。

 静かに扉が閉まる。と思ったら、すぐにまた開いた。移動した感覚はない。しかし外の光景は先ほどと違う。

 ――もう到着?

 驚きつつ、八木さんに従って降りる。確かにトイレが目的地だったようで、いくらも歩かないうちに出入り口があった。入っていくと、そこにあったのは和式の便器だ。

 ――ああ!

 理解できた。和式ならヤギでも用が足せるのだ。

 八木さんがわかったか? とでも言うように振り返る。安治はこくこくと頷いた。なるほど、最初に教わるべき重要な事柄だ。

 入るか? と八木さんが仕草で訊いてくる。今のところ用はない。今度は首を左右に振る。八木さんは頷いて、またエレベーターに戻った。

 同じ手順で次に選んだのは「研究棟」だった。

 すると「研究室」「その他」の選択肢が現れた。「研究室」を選ぶと、画面が「A」「B」「C」に変わる。「B」を選ぶとさらに「1」から「7」までが表示され、「5」を押すと、初めてエレベーターがしゃべった。

「行き先は研究棟、B五地区、でよろしいですか?」

 画面には「決定」「変更」が出ている。

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