第234話
――青い首輪。
確認して頭を下げる。すると向こうもお辞儀を返してきた。間違いない。
八木さんは安治よりずっと堂々とした、年季の入ったヤギだった。長い角はカーブして先端が左右に開いている。ぶつかったら凶器だろう。お腹は大きく膨らみ、たっぷりした髭は仙人か偉人のようだ。
――板垣退助……だっけ?
髭から連想している間に、八木さんが一声鳴いた。
「ンメエエェェェェ……」
大きく、嗄れた、サイレンのように長い鳴き声だった。通路中に響き渡ったのではないかと安治はぎょっとする。
「メ、メェ」
きっと挨拶なのだろうと判断し、慌てて鳴き返して再度頭を下げる。八木さんも頭を下げると、ゆっくり踵を返して元来たほうへ歩き出した。ついてくるように、とばかりに軽く振り返る。安治はもう一度返事をして、ぴょこぴょこと追いかけた。
八木さんはそれ以降、声を出さなかった。エレベーターの前で立ち止まると、軽く鼻先でしゃくってみせる。きっと乗り方を実演してくれるのだろう。
「メェ」
お願いします、と頷きながら返事をする。
まず鼻先で扉を突く。部屋のドアと同じように開いた。操作パネルの高さには届かないのではと心配しつつ乗り込むと、ちょうど顔の位置にもパネルがあることに気づいた。
――ヤギ用?
驚いたが、きっとそうなのだろう。ヤギに限らないのかもしれない。小型の犬でも猫でもアライグマでも、立ち上がれば操作できる高さだ。ハムスターや亀では無理かもしれない。
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