第371話

 タナトスは軽く首を振った。

「違う」

「違うの? なんだ」

「シラクサは全部で一〇〇人くらい。日本人は一緒に生活しようとした。でもうまくいかなかった。シラクサは消えた」

「うまくいかないってどういうこと? 抵抗されたの?」

「違う。シラクサは何もしない。何人かの女性は日本人と結婚した。それ以外は消えた」

「消えた? 逃げたってこと?」

 タナトスは首を横に振って繰り返す。

「消えた」

 安治はまたぞっとした。

「あのさ、じゃあその人たちは、日本人じゃないってこと? でもなんでそれがわかるの? 単に孤立した集落ってことじゃなくて?」

 問いを口にしながら、言葉が通じなかったのかもしれない――と想像が働いた。マチの人たちは日本の標準語を話している。おそらくは東京周辺から来た人たちがルーツだ。シラクサは方言が強かったので会話が噛み合わず、自分たちとは違うと感じたのではないだろうか。

「見た目が違う」

「え?」

「シラクサはタナトスに似ている。らしい」

「…………」

 意外な言葉に思考が止まった。こんな作り物めいた見た目の人ばかりがいる村? 蝋人形の館にでも迷い込んだようで不気味ではないか。

 ――そういう意味じゃないか。

「似てるって、何が? 髪が白いとか?」

「白い人もいた。みんなではない」

「ふうん……後は?」

「背が高い」

「ああ」

 急に納得がいった。

 マチができたのがいつなのかは知らない。仮に一〇〇年前だとして、その頃に身長が一八〇センチを超える人たちの村なんて日本にはあり得ないだろう。

 奇異だ。そう、日本人としては。

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