バイオハザード
第370話
「そうだ、タナトス。ダイモンって知ってる?」
「知ってる」
思いつきの問いかけをあっさり肯定され、思わずぎょっとする。
「知ってるの?」
「……知ってるとおかしい?」
「いや、全然。知ってるなら教えてよ」
「ところがタナトスには見えない。安治には見える?」
「ううん、見えない。でも、いるんでしょ?」
「いると聞いている。タナトスには見えない。タナトスにはそれが真実なのかを判別できない」
「別にいいよ。知ってること教えてよ。それって幽霊みたいなもの?」
訊くとタナトスは両腕を組み、片方の頬を膨らませて目線を横にやった。わかりやすい考えるポーズだ。
「幽霊……みたいなもの……である」
「誰かの念ってこと? 志半ばで亡くなった人とか、ご先祖様とか」
「うう……そのようなもの。
「白草谷?」
初めて聞く地名だった。安治の反応にタナトスも意外そうな顔をする。
「マチの名前。シラクサが住む白草谷」
「あ、そういう名前があったんだ。……シラクサって何?」
「住んでいた人たちのこと」
「ふーん? そういう呼び方をするんだ。でもその人たちって日本人なんでしょ?」
タナトスは首を横に振った。
「シラクサはシラクサ」
「いや、日本人は日本人でしょ。マチの人も元は日本人だって、誰かに聞いたよ」
「今、マチにいる人たちはほぼ日本人」
「……え」
――今?
何となく、ぞっとした。
「どういうこと? シラクサっていう先住民がいて、そこに日本人がやってきた――ってこと?」
「そう」
「え、それって……日本人がシラクサを殺しちゃった……ってこと?」
その怨念がダイモン――ということだろうか。思っていたより禍々しいルーツではないか。
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