第261話
「……メェ」
――冷蔵庫に遭ったらどうなるの?
「見た目は冷蔵庫なんだ。面白いだろ。実際それが何なのかは誰も知らない。死んだ人の恨みだとか、大自然の怒りだとか、色々言う人はいるけどな。ボクは異次元の扉説が妥当だと思ってる。吸い込まれて帰って来ない……って言われている人が何人もいるからな」
――え。
安治はもう声が出せなかった。吸い込まれたら帰って来れない……。そういう危険な代物だったのか。
「まあ、出遭うことなんてそうないけどな。ボクも今までに二回しか……」
言いかけて不意に自分の身体を抱く。恐ろしい記憶を思い出してしまったかのようだ。次に話し出すとき、唇がわずかに震えていた。
「……一回は強烈だったけどな。もう子どもの頃だ。あれは、マチ史上でも一番酷かったらしい」
――酷い?
「……すごい……巨大だったんだ。朝、寺子屋に行こうとしたら、大きなビルみたいなのが遠くに建ってて。でも透けてたから、おかしなものだってわかった。昼休み、見える子たちはみんなそれを……あ、見える人と見えない人がいるんだ。みち子姐さんには見えてないみたいだった。……休憩が終わる直前に、みんな叫び出した。ボクも叫んだ。ビルじゃなくて冷蔵庫だって気づいたのはそのときだな」
再現するように目線を上げる。
「……扉が、ゆっくり開いていったんだ」
ビルの大きさの冷蔵庫についた巨大なドアが開くのを想像する。SF映画――いや、インパクト狙いの滑稽なCM映像のようだ。なのに鼓動は自然と激しくなった。
――開いたら……どうなるの?
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