第262話
たま子は数秒、間を置いてから続けた。
「……その冷蔵庫が現れたのは、沼って呼ばれる地区だったんだ。あまり土地が良くなくて、住み着くのも流れ者みたいな人ばっかりで、他の地区とはほとんど付き合いがなかった。だからファミリーも正確な調査はできなかったんだけど……本人たちが言うには半分くらいの人が被害に遭ったらしい」
「メェ? メェ?」
――吸い込まれちゃったの? そのままいなくなっちゃったの?
記憶に思いを馳せていたたま子は、ヤギの声に我に返ると、宥めるように安治の頭を撫でた。
「ああ、大丈夫だ。その一件以外は大きな被害の報告はないから。噂では、沼地区だからそういうことが起きたんじゃないかとか、人為的に呼び寄せたんじゃないかとか言われてる。まあ真実はわからんが」
「メェ……」
――俺もう三回見てるんだけど……。
「だからな、お前も気をつけろよ。いつもはない場所に冷蔵庫があったら、絶対に開けるな。開けなければ特に問題はないから。不必要に怖がる心配はないからな」
「メェ?」
――こっちが開けなくても、勝手に開いて中から何かが出てくるってことはない?
問いかけるもたま子には通じない。話は済んだと思ったのか、端末をいじり始めてすぐに表情を明るくする。
「あ、九時には帰れるって」
「メ?」
――彼氏?
「姐さんもそうじゃないのか? あと二時間……お前一人で大丈夫だよな?」
「……メェ……」
あまり一人になりたい気分ではない。しかしこれから恋人に会うという女性を引き留めるわけにもいかず、しぶしぶ頷く。
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