第427話

「ああ、色も暑苦しいしな」

「え?」

「え? ってなんだ」

「暑苦しいかな……」

「何色に見えてるんだ?」

「何色って普通に……これって三毛猫なんだっけ? 白地に、黒と茶色のぶちのある……」

 たま子は苦々しい顔で首を横に振った。

「だったら可愛いだろうけどな。ボクにはその白地が金、ぶちが赤に見えるんだ」

「……暑苦しいね」

「だろ」

 安治はたま子に見えているだろう招き猫を想像する。それからもう一度実際のそれを見ても、見え方は変わらなかった。

「ひょっとして、慣れてきたら見え方が変わるのかな」

「どうだろうな。人によって違うものなのかもしれん」

 安治はもう一度自分の背後にいるものを確認した。相変わらず金色の瞳でこちらを見つめている。と思うと、ぱちっと瞬きをした。

「これって……その人専属……?」

「ああ」

 がっくりきた。こんなに可愛くないものに今後つきまとわれ続けるのか。

「あ、ひょっとしておりょうちゃんにもいる? それもこういうのだったら……」

 平穏な同居生活に影が落ちてしまう。

「それは大丈夫だ。姫にはついていない」

「そうなんだ。ならよかった……。じゃあ、おりょうちゃんには見えもしないってこと?」

「おそらくな。だからこの話はするな。とりあえずボク以外、誰とも」

「うん」

 頷き合ったところで、たま子の表情がすっきりしたものに変わった。話は終わったと言いたげな雰囲気だ。

「さて」

 と案の定立ち上がりかけたのを止める。

「待ってよ。もうちょっと説明してよ」

「説明? 何をだ」

「だからこれ……何の役に立つの?」

 たま子は怪訝な顔をした。

「立たないぞ」

「は?」

「見えるだけだ」

「……見えるだけ?」

「触れもしないし、会話もできない。ボクが寝坊して焦っていても、ただぼけーっとそこにいるだけだ」

 安治はたっぷり三秒ほど絶句してから呟いた。

「本当に?」

 たま子は軽く笑い、今度こそ腰を上げた。

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