家電チームの秋元
第299話
四八時間眠り続ける間に、こんな夢を見た。
私はずっと何かを考えていた。やっと思いつき、ノートにそのイメージを描き留めるため煙草とペンを持ち替える。描いたのは、飛行機のエンジンを思わせる円筒型の物体だった。
ああ、そうだ、私はここしばらく、新しい洗濯機の構造について考えていたのだ。
描いている途中で眠気を催し、一瞬だけ船を漕いだ。
そういえば最後に自室に戻ったのはいつだろう。食べたりトイレに行ったりした記憶も曖昧だ。覚えていないだけで無意識のうちに済ませていたのかもしれないし、実際にこのデスクからしばらく動いていないのかもしれない。
思い出せない。とにかく私は新しい洗濯機を完成させたいのだ。
「先生」
背後から声をかけられる。振り向くと助手のサクラが、お盆に湯気の立つ茶碗とどら焼きを乗せて立っていた。その顔は悲しんでいるようでも笑っているようでもあった。困っているのかもしれない。
「声をかけてすみません。少しは何か召し上がったほうがよろしいかと思いまして」
サクラは弱々しい手つきで、でもどこか強引に私の前にお盆を置いた。吸い殻でいっぱいだった灰皿を、素早く新しいものと交換する。
そうだ、私はいつも彼女が私の意図しないときに声をかけてくると怒っていた。考えごとの邪魔をされるのがとても嫌なのだ。なのに今は、お盆にノートの位置をずらされて苛立ちはしたものの、声に出して怒る気力がない。
それくらい――空腹なようだ。
「少し、休まれたらどうですか」
気を遣った声でサクラが言う。
私はわずかに頷いた。
彼女の提案に従うことは滅多にない。彼女はただの助手だというのに心配性で、私の親ででもあるかのように余計な気を回しては、たびたび私の考えごとを邪魔する。自然、無視したり拒否したりする癖がついていた。
少し休んだほうがいい。
このときは自分でもそう思った。私はもう何日寝ていないのだろう。忘れていたけれど、私はかなり疲れているようだ。喉もからからに乾いて声が出せない。
サクラはお盆を置くとそそくさといなくなった。私に何か小言を言われるのを怖れたのだろう。
熱いお茶をゆっくりすすり、どら焼きを一口、念入りに噛み砕いて飲み込む。
甘い。
急に腹がぐるぐると鳴り出した。しばらく仕事がなくて休んでいたところに仕事が舞い込んだので、張り切って動き出したのだ。今まで感じていなかった食欲までつられて働き出す。なんて仕事熱心なことか。
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