第171話
考えているところで、ぽんと肩に手を置かれた。誰かが背後に立っている。その人物を直視しているはずのタナトスの表情が微妙に強張ったのを見て、安治は嫌な予感を覚えた。
恐る恐る振り返る。すらっとしたウェーブヘアの男性が爽やかな笑みを浮かべて立っていた。
「――――」
安治は何かを言おうとして口を開けた。実際には言葉は出てこなかった。何が言いたかったのか、自分でもわからない。
ただ驚いたのは間違いがない。初めて見る男性だ。しかしその顔には見覚えがある。推測が合っていれば、所長の血縁者だ。
「北条さん」
とタナトスが言った。この人が、と安治は妙に納得した。
北条さんは白衣を着ていなかった。ブランドものらしい、シンプルだけれど絶妙にスタイルの良さを強調したおしゃれなシャツとパンツを着こなしている。髪の毛はわざわざパーマをかけたようなくっきりしたウェーブヘアだ。しかし天然なのだろう。所長のくしゃくしゃな長髪を思い出す。あれもきっと手入れをすればこうなるに違いない。
年の頃は三〇をいくつか過ぎたくらいだろうか。所内で見かける白衣の人たちに比べて、圧倒的に健康的かつセクシーな雰囲気をまとっている。東京にいたときに見かけたとしてもかっこいいと思ったに違いない。
――所長の弟?
見れば見るほどそっくりな顔をつい凝視してしまう。顔のパーツはほとんど同じだろう。違うのは、所長のほうが全体的にくたびれて弛んでいる点だ。
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