第197話

「お、お前――大丈夫なのか? 歩けるのか?」

「あー、うん。平気」

 苦笑いするしかない。傷はだいぶ癒えてきたものの、一旦汚れた服はどうにもならない。

 寺子屋に集まった一同に待機の指示を伝えたのは、オーナーの娘で教員の一人でもあるみち子だった。髪を茶色く染めた二〇代半ばの可愛らしい女性の指示を受けて、場がざわつく。

「待機って、待ってる間に酸欠になったらどうするんだよ。どんどん燃え上がってるんだぞ」

「こんなマチナカにいるより、歩いてでも郊外に移動したほうがいいんじゃないの?」

「待機してて本当に助けが来るの?」

「なんで水が出ないんだ? 実はもう、本社が最初にやられてるんじゃないのか?」

 心配と焦りから大声での反論が相次ぐ。負けじとみち子は拡声器で言い返した。

「自力で避難したい方はどうぞ。私たちに守る義務があるのは、寺子屋の敷地内にいる人たちだけです。目下、ファミリーとは密に連絡を取り合っています。順次寺子屋を回って救助に来る予定ですが、用意する乗り物に乗れる人数には限りがあります。人数が多ければ全員が一度に乗れるとは限りません。ですからどうぞ、待機したくない方はどこへでも行ってください。移動する途中で燃え落ちた建物の下敷きになろうと、炎に囲まれて立ち往生しようと、私たちは知りません。それと、ここに残るなら残るで、大声を出したり暴れたりしないようお願いします。貴重な酸素を無駄遣いする人は叩き出しますので、そのつもりで」

 見た目に反して可愛くない態度ではっきり告げる。

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