第196話

 それはカンカン帽を被った和服の男だった。いやに落ち着いた様子で二人を――特に琥太朗を注視しているように感じられた。

 安治は琥太朗を抱く腕に力を込める。周辺がまだ燃え上がっていない中、何故この家だけ火の回りが早いのか……?

 疑問に集中する間もなく、カンカン帽の男が近づいてきて声をかけた。

「――琥太朗くんかな?」

 安治は咄嗟に背中で庇う。やはりこの男は不自然だ。この状況で落ち着きすぎている。それにもし親の知り合いか何かで頼まれて安否を確かめに来たのだとすれば、名前は呼び捨てにするのが普通だ。

 ――よそ者。

 そう直感した。

「違います、うちの弟です」

 琥太朗がこの家の子だと知られてはいけない気がした。

「行こう、潤」

 愚図る琥太朗を引き摺るようにして、男とは反対方向に向かう。琥太朗の特徴的な茶髪を見せるのも危険な気がして、自分の身体で男の視線を遮りつつ歩いた。

 角を曲がってしばらくしてから男が追ってこないのを確かめて、軽く胸を撫で下ろす。

 向かった先は寺子屋だった。ファミリー直轄の施設なので、いざというときの避難所に指定されている。二人が着いたときには既に多くの子どもや保護者が集まっていた。

「琥太朗!」

 敷地に入る手前で、待ち構えていたらしいたま子が駆け寄ってきた。必死の形相だ。

「怪我したのか?」

 下を向いたきりの琥太朗を抱きしめかけ、白いシャツについた血の染みに気づいて顔を引き攣らせる。

「それ、俺の血だよ」

 慌てて口を挟んだ安治をようやく見上げて、たま子はぎょっとした。身体の前面が血で濡れそぼっている。

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