第324話

 手の甲が痒い。無意識に掻いて、どきっとした。

 掻いた爪の中に皮膚がごっそり入っている。見れば筋状に血の滲んだ手の甲は、短時間のうちにだいぶ茶色くなっているではないか。

 ――焦げてる。

 慌ててリュックを下ろし中を漁る。ソトの人に顔を見られないようにとマスクを持ってきておいてよかった。帽子はないので、代わりにタオルで頭を覆う。手には軍手を着けて、とりあえず目元以外は隠すことができた。

 再びリュックを背負い、軍手を着けた手で目元を日差しから庇いつつ歩き出す。

 ――サングラスとつばのある帽子は必要だな。あと……。

 何が必要だろう。薬はよくわからない。二人が持っている荷物の中にも火傷の薬はあった。今頃塗っているだろうか。それよりも日に当たらないようにしなければ。ならば優先はやはり屋根だ。里まで下りなくても、途中に山小屋のようなものがあればいいのに。

 ――山小屋……屋根……。

 足を進めながら辺りにも目線を配る。徒歩移動が基本のマチで育った安治にとって歩くのは苦ではない。同じ年頃のソトの子どもの倍ほどの速さで軽やかに下山する。

 しばらく行って気づいた。周辺で落ち葉や枝を踏むような音がしないか。

 ――誰かいる?

 静かに立ち止まり辺りを見回す。視界には人も動物の影も入らない。

 耳を澄ます。何も聞こえない。

 気のせいかと歩き出す。少しするとまた、斜め後ろの方向からかさこそと聞こえた。

 ――気のせいじゃない。

 誰かが追って来ている。たま子たちではないだろう。もしや昨日殺した男の仲間かと背筋が寒くなる。

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