第323話

 ――とにかく、ボクは気配を感じ取る力が強いんだ。離れても後を追える。そうだろ?

 最後の問いかけに安治は思い出すことがあった。

 たま子が働き出すようになるまでは、寺子屋のみんなでよくかくれんぼをやった。たま子は確かに、人を探し出すのが上手だった。最初からみんなの隠れた場所をわかっていて、わざと時間稼ぎをしている風さえあった。

 ――ボクには尻尾が見えるんだ。

 そう言っていた記憶もある。そのときはただの冗談だと思ったが。

 ――本当に何かが見えているのか……。

 安治は納得し、一人で下山することを了承した。

 ――先に行ってるね。

 精一杯の虚勢を張って出発した。置いていくのは女の子と小さな弟。自分が守るのだ、という意識が足を動かした。

 五分も歩かないないうちに後悔に襲われた。

 思えば、たま子が真実を言っている保証なんてないではないか。変なときに変な嘘をつく。そういう奴だ。七歳で出会ってから一三歳の今まで、つまり人生の半分を兄弟――寺子屋の同窓生――として過ごしてきて、ダイモンの話なんて一度も聞いた覚えがない。咄嗟の作り話だったのでは。

 ――戻ろうか。

 振り返るたびに思う。戻ったとしてもたま子は喜ばないだろうから、その選択はできないのだけど。

 ――隠れられそうな空き家。

 自分に確認するように頷いてみせる。

 探すしかない。もう車にも戻れないとすれば、今夜の寝る場所を山の下で探さなければ。

 まだ午前中だ。たま子は休んだら後を追うようなことを言っていた。考えてみれば二人が回復するはずはない。日が出ている間中、悪化し続けるに違いない。

 空き家を見つけて、二人を探しに戻って、無事に連れてくる。それが自分の仕事だ、と気合いを入れ直す。

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