第444話

「ちゃんと聞いてる?」

「聞いてる」

「じゃあ、タナトスはどう思うの。教えてよ」

「あう。……安治、『道具は自分の力か』と言った。対してたま子が言ったのは『道具を使うのは自分の力か』。道具は自分の力ではない。しかし道具を使うのは自分の力である」

 それだけ言うと、「違う?」と言うように首を傾げて見せた。

 何も返せなかった。それが正解でいいように思う。

「そっか、じゃあ、話を戻すと……人が道具を使うのは当たり前なんだから、魔法で誰かと付き合うのはフェア……ってこと?」

 タナトスとたま子の顔を交互に見ながら言う。最初は言い切るつもりだったのが、結局疑問形になった。たま子が軽い笑みを漏らす。

「フェアじゃないって言いたげだな」

「うーん……」

 フェアじゃない気がしてしまう。どうしても。

「魔法を使ってなかったら、その人は俺のことを好きになってないんだよね?」

「でもお前、『自力で』って言ったよな。自力でどうにかできる可能性はあるって思ってるんだろ?」

「その人の好みに合わせて顔を整形するとかね」

「わかった、わかりやすく言おう。その人と付き合うには条件があって、その条件をクリアすれば付き合えるとする。顔を整形するとか、好みの体型になるとか、ドクターになったら付き合ってやる、とかな。その条件をクリアしようとしまいと、その人は『お前と付き合う』んじゃないか?」

「うーん? だから、その人は『ドクターになった俺』と付き合いたいわけで、今の俺とは付き合いたくないんでしょ?」

「でもお前はお前だろ。一旦は『ドクターになったら付き合ってあげるよ』と言われたものの、もう一度告白したらあっさりOKされました。それは自力じゃないのか?」

「自力……だね。でも」

「なんだ」

「魔法で人の気持ちを変えるんだとしたら、やっぱりフェアだと思えないよ」

 しばらく聞き手に専念していた戸田山が、うんうんと頷いた。

「つまり安治くんは、ソポスを使いこなすことに抵抗があるということですね」

「あー……かもしれないです。何でも自分の好きにできるって、わがままな気がしちゃって」

 あるいは単に未知の世界すぎて、想像が追いつかないだけかもしれないが。

 ――もう未知の世界じゃないのか。

 小指に嵌まった銀色の細いリングを見る。存在すると思わなかったものが目の前にある。だから戸惑っているのかもしれない。戸惑いと言うより、尻込みだろうか。

 ――願いを叶えたくない。

 きっと、そんな気持ちがある。願ったことがすべて叶ってしまったら、逆に何を目標に生きればいいのか。

 戸田山はにこにこと言った。

「完璧です。是非ソポスマスターになってください」

「はい?」

 何が完璧なのだろう。ハテナが浮かんだ安治にたま子が告げる。

「お前に使えるなら、誰にでも使えるってことだからな」

「う……まあ、確かに」

 実験体として適役ということか。

「気づいたことがあったらどんどん報告してくださいね」

 と戸田山が言うのに、

「頑張ります……」

 と消極的に返すことしかできなかった。



(ここで連載は終了です。長々とお付き合いいただきありがとうございました。今後は単発の読み切りで継続する予定です)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

目が覚めたら別人になっていたけど、とりあえず普通に生活します 鏡りへい @30398

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ