第443話
「保守的なソポスはキャンセルする時間をくれる。本当に叶えていいのか、と問いかけるようなイベントを起こすこともある」
「じゃあさっきの『死ね』ってやつだと――」
「アルキビアデスなら突発的な事故で即死させかねない。アガトンだと、一か月後に癌が見つかって余命半年と宣告される……みたいな遠回しな方法だろうな」
「じゃあその間に『やっぱり癌じゃなかった』って願えば大丈夫、ってことだね?」
「そういうことだな」
「ふうん、なるほど……安全って言った意味がわかるよ」
「その代わり『好きな人と付き合う』みたいな願いでも時間がかかるから、その間に自分でキャンセルしたくなってしまうというリスクが生じるがな」
「え、そう? キャンセルしたくなるかな」
ぴんと来ない。願いが叶うなら万々歳ではないのか。
「仮にお前がみち子姐と付き合いたいと願ったとするだろ。ソポスが光ったら、後は放っておけばいずれ願いは叶う。そうとわかっていたとしてもな、時間が経つごとにいろいろ不安になるんだよ。やっぱりこんな自分ではダメなんじゃないか、努力なしに手に入れるなんてアンフェアじゃないか――と自己否定したりな。本当にみち子姐でいいのか、他にもっといい人がいるんじゃないか――と迷い出したり。誰とでも付き合えるとなったら、逆に選べないだろ」
「ああ……」
『ソポスのおかげで』好きな人と付き合えるとなったら、却って引け目を感じてしまう自分が容易に想像できた。相手が騙されているようで、同情すら覚える。
ちなみにみち子は自分の名前を出されても一向に気にせず、自分の席で歌舞伎揚げをぼりぼり噛み砕きながら資料を読んでいる。
「そうだね、自力で叶えるからいいや……ってキャンセルしちゃうかも」
自嘲気味に言うと、たま子ははっとした顔をして二、三秒黙った。指で自分の顎を
「魔法が使えるようになったとして、それは自分の力ではないと思うか?」
「え?」
微妙に難しい質問だった。魔法は自分の力かどうか……。
「どっちかっていうと、魔法って道具な気がするよね。誰かにもらった道具……って感じ?」
「じゃあ、もらった道具を使うのは、自分の力ではないと思うか?」
「うーん……。道具は、自分の力かどうか?」
道具は自分ではない。それは確かだ。
しかし自分が着ている服、持っているバッグは『自分のもの』ではあるだろう。自分がそれを選び、他人から『この人はこういうものを選ぶ人なのだ』と判断される要素になる。つまり、自分のものを選ぶセンスは『自分』だと言ってよいのではないか――。
考えながら眼球を動かした先に白い顔があった。ガラスケースに入った人形のように、人間そっくりの顔をしながら我関せずを体現している。
――こいつ、目を開けたまま寝てない?
「メェ」
低めの声で呼びかけると、ぎくっとして慌てて返してきた。
「メェ」
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