第10話

「これはあなたのイメージです」

 声のするほうに顔を向ける。一年中敷きっぱなしの布団の上に、先ほどと同じく椅子に腰掛けた若紳士がいた。革靴も履いたままなのに目が行く。

「イメージ……?」

 映像なのだろうか。壁に手を伸ばす。触れた。記憶にあるのと同じ手触りだ。

 安治の行動を見て若紳士が頷く。

「もちろん、触れますよ。イメージこそがあなたが認識する世界ですから。今まであなたが現実だと思っていた世界――と言ってもいい」

 その言い方ではまるで、今まで現実だと思っていた世界が幻想だと言っているようだ。「あなたも俺のイメージなんですか?」

「いいえ。私はあなたの知り合いです。あなたにとっての他者です」

「……他者がどうして俺の夢に?」

 言ってから疑問に思う。自分の夢ではなく、この人の夢に自分が登場しているのだろうか。

「すべては一つだからです」

 回答は簡潔だった。若紳士は穏やかに微笑み続けている。

「一つ、ですか」

「本当は私とあなたの区別などありません。あなたとあなたの部屋との区別もありません。でも区別したほうが楽しいから、それを選んでいるんです。つまり、あなたはあなたが見たい現実を見ているんです」

「はあ……」

 安治は眉根を寄せつつ鼻の頭を掻いた。それから何かを言った気がする。しかし夢はそこで緩やかに途切れた。

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