第10話
「これはあなたのイメージです」
声のするほうに顔を向ける。一年中敷きっぱなしの布団の上に、先ほどと同じく椅子に腰掛けた若紳士がいた。革靴も履いたままなのに目が行く。
「イメージ……?」
映像なのだろうか。壁に手を伸ばす。触れた。記憶にあるのと同じ手触りだ。
安治の行動を見て若紳士が頷く。
「もちろん、触れますよ。イメージこそがあなたが認識する世界ですから。今まであなたが現実だと思っていた世界――と言ってもいい」
その言い方ではまるで、今まで現実だと思っていた世界が幻想だと言っているようだ。「あなたも俺のイメージなんですか?」
「いいえ。私はあなたの知り合いです。あなたにとっての他者です」
「……他者がどうして俺の夢に?」
言ってから疑問に思う。自分の夢ではなく、この人の夢に自分が登場しているのだろうか。
「すべては一つだからです」
回答は簡潔だった。若紳士は穏やかに微笑み続けている。
「一つ、ですか」
「本当は私とあなたの区別などありません。あなたとあなたの部屋との区別もありません。でも区別したほうが楽しいから、それを選んでいるんです。つまり、あなたはあなたが見たい現実を見ているんです」
「はあ……」
安治は眉根を寄せつつ鼻の頭を掻いた。それから何かを言った気がする。しかし夢はそこで緩やかに途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます