目眩

第20話

「大丈夫? 安治」

 まず耳に届いたのはごく軽い口調の問いかけだった。思わず顔を向ける。最初に入ってきたのは、安治よりは年上に違いないもののまだ若そうな女性だった。すたすたと近づいてくる。

 そして何の断りもなく、座っている安治の額に手を当てた。子どもの熱を測る仕草だ。

「頭痛い?」

「……いえ」

 勢いに押されつつ答える。

「こっちは?」

 今度は後頭部を触られる。

「いえ……別に」

 ふむ、と言って女性は両手を腰に当てた。

 この女性は――生まれつきの女性のようだ。目のぱっちりしたそこそこの美人で、茶色の長い髪を一つに束ねている。

「昨日、頭痛いって言ってたのよね?」

「え?」

 訊かれてもわからない。代わりに答えたのはウェーブヘアの美人のほうだった。

「はい、頭が痛いのと気持ち悪いと言って、早めに寝てしまわれたんです」

「昼間もそうだったのよね。頭がぐらぐらするとか吐き気がするとか言ってて。覚えてる?」

「えっと……覚えてません」

 弱々しく答えると、白衣の女性は一瞬黙った。

「覚えてないの?」

「……覚えてません」

「どうしたの、あんた」

 女性は吹き出した。何を笑われているのか、安治にはわからない。

 女性はぼすんとがさつな動作で隣に座った。

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