第21話

「じゃあ、何なら覚えてる? 生まれたときから全部忘れちゃった?」

 ――からかわれているのだろうか?

 面白がっているような言い方に、少し不愉快な気分になる。

「いえ、だいたい覚えていると思います。昨日のことというのは、わかりませんけど……」

 自然、神妙な口調になる。同行していた眼鏡の男性が、ぶっと言って口を押さえた。笑いが堪えきれなくなったらしい。

「変ですね」

 まだ何も言っていないのに、そんな評価を受ける。

 白衣の人物は三人いた。もう一人、白髪の混じるくしゃくしゃな髪を肩に垂らした中年の男性だけは、眉間に皺を寄せて黙っている。

「覚えてるって、何を? 思い出せるところでいいから教えて」

 隣に座った女性が訊いてくる。安治は何を答えればいいのか迷う。

「覚えてるのは――昨日、俺は、カレーを作りました」

 それが『昨日』のことなのかはわからない。とりあえずそう話し始める。

「カレー?」

 白衣の女性がウェーブヘアの女性を見上げる。見られたほうは首を横に振った。

「どこで作ったの? この部屋?」

「いえ、自分の家です」

 ん? と声を出したのは眼鏡の男性だ。白衣の女性も不思議そうに質問を続ける。

「自分の家って?」

「アパートです」

「アパート? ここじゃなくて?」

「ここじゃありません」

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