第22話
「あ」
眼鏡の男性が手を叩いた。
「前住んでた部屋じゃないですか?」
ああ、と白衣の女性も頷いた。
「そっか、引っ越したこと忘れてるのね。あなた、ひと月くらい前に引っ越したのよ。独身用から家族用に。だいぶ広くなったでしょ。引っ越したこと、覚えてない?」
「覚えてないです」
――そうなのか。
答えながら安治は少しほっとした。話が見えてきた。つまりひと月ほど前に引っ越し、その前後にこの人たちと知り合い、昨日の頭痛とやらでその辺の記憶が消えてしまったのだろう。
「じゃあ、前の部屋に行ってみる? もう荷物はないけど……部屋だけでも見れば、何か思い出すかもしれないし」
女性の提案に全員が頷いたように見えた。そこで初めて、年長の男性が静かに口を開いた。
「待って。――あなた、私たちのこと覚えてる?」
「え?」
安治と隣の女性が同時に声を上げた。女性が視線を安治に向ける。
「いえ」
安治は短く答えた。予想外だったらしく、女性の目と口が大きく開かれる。
「え?」
大きめの声に責める気配を感じた。安治は反射的に自分の母親を思い出した。
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