第23話

 責められたところで、覚えていないものは覚えていない。故意ではないし、誰が悪いわけでもあるまい。それでも何故か申し訳ない気分になった。

「……え?」

 と小さい声になる。

「覚えてないの?」

 やはり責め口調に感じる。

「……はい?」

 ごまかすように聞き返す。

「私が誰だかわかんない?」

「…………」

 簡単な問いに答えるのを躊躇う。答えて、無能扱いされるのが怖かった。

 しかし選択肢はない。

「覚えてません」

 部屋に沈黙が降りた。

「それでか」

 数秒経って、最初に言葉を発したのは眼鏡の男性だった。声に溜め息と失望が混じっている。

「嘘でしょ、冗談言わないでよ」

 女性のほうは怒っているようだ。子どもっぽい仕草で安治の肩をぽかぽか叩く。

「おりょうちゃんのことも忘れちゃったわけ?」

「おりょう?」

 視線の先を追う。いつの間にか隣にウェーブヘアの女性が座っていた。この人の名前か、と納得する。名前というより呼び名か。

 本名はりょうナントカというのだろう。リョウスケとかリョウタとか。

「おりょうちゃん……」

 口に出して呼んでみる。しかし何も思い出すことはない。おりょうは切なげな表情をした。控え目な雰囲気が姉の澄子に重なる。

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