第327話
その嫌な感触に血の気が引いた。あると思った場所に腕がない。――恐る恐る目を遣ると、左腕はついていた。ただし外側の半分ほどが骨ごとなくなり、辛うじてぶら下がっているような状態で。
――うわ。
悲鳴が声になる余地はなかった。瞬間的に恐怖と痛みと嫌悪感が膨れ上がって、思考と身体の動きを麻痺させる。全身ががくがくと震え、涙が溢れた。
やっと次の行動が取れたのは、男たちの足音が近づいて来ているのに気づいたときだった。見上げればすぐそこにいる。
――逃げなきゃ。
しかし身体に力が入らない。立ち上がろうとしても脚が震えてしまい、両膝と右手でどうにか地面を這う。
「あはははは」
小柄なほうの男が我慢できないように笑っている。何が楽しいのか。
安治は男たちの動向にばかり気が向いて、自分がどこにいるのか把握していなかった。割れた枝や尖った石を踏みつけて痛いが、それを気にする余裕はない。
大柄なほうの男は、ほとんど無表情に目の前の子どもを眺めている。そこに浮かんでいるのは敵意ではない。怒りでも哀れみでもなく、むしろ退屈だ。銃を向けながら、殺意ほどの興味すら抱いていない。
男は追い詰めるようにじりじりと近づいてきた。わざと安治が逃げるのを待っているような動きだった。仕留められるのに仕留めようとしない。
小柄なほうの男は相変わらず笑い続けている。安治は不気味な予感にぞっとする。逃げられない獲物をいたぶって楽しむつもりなのだろうか……?
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