第3話

 そのバイトもクビになったから、今はただの無職だ。

 クビになった理由は、客からのクレームだった。接客の態度が悪いという。同じ日に二組から訴えられた。

 身に覚えはなかった。なかったけど、相手が酔客なら多少ぶっきらぼうな態度にはなる。彼女に振られた直後で投げやりだったのかもしれない。

 安治は背が高い。一八四ある。細身で、肩幅が広く、顔は可愛いほうではない。細面で眼も唇も鼻も細く、何だか尖ったような顔なのだ。だから知らない人には怖いと思われる。それできっと、そんなつもりはなかったのに不快な印象を与えてしまったのだ。

 これも言い募っても仕方がないと判断して、素直に受け入れた。

 安治はそういう性格だ。面倒くさがりで、消極的で、冷めている。

 ――そうでなきゃ、おかしくなる。

 カレー粉とじゃがいもを買いに、再びバッグを持って家を出た。

 安治の実家は資産家だ。母方の祖父と大伯父と叔父は医者。大伯父の子孫にも医療関係者が複数いるし、叔父の娘と息子はナースと医大生。安治の父は大企業を経営する一族の出身で、今は地元の市議会議員をやっている。

 安治は長男だった。それも姉二人の後にやっと出来た待望の男の子だった。

 当然――というべきか、医者になれというプレッシャーがすごかった。特に母親の。

 母の弟の息子、つまり従兄弟がちょうど安治と同い年だったせいもある。従兄弟は安治よりずっと――おそらく同年代の子たちよりもずっと――出来が良かったのだ。

 比べられた。

 母はいつもいつも出来の良い従兄弟と比べて、あんたはいまひとつなんだからもっと頑張らないと、というようなことしか言わなかった。あんたは体格が大きいだけで何もできない、とも言われた。

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