第4話
安治が見た目と対照的に気が小さいのはそのせいだ。いつもできないできないと言われ続けて、自信の持ちようがなかった。
母親は安治を医大に入れたがった。成績が上がるように家庭教師をつけた。
小さい頃の安治は頑張って、テストでは良い点を取った。でも九八点の答案を見て、満点じゃない、と母親はくどくど説教した。それが学年の最高得点でもだ。
少し大きくなると、安治は母親に反発するようになった。勉強しろと言われれば言われるほど、勉強しなくなった。
医大なんてもちろん入れやしない。一年浪人した後、親の反対を押し切って文系の三流大学に入学したところで縁を切られた。
一年目の学費は払ってもらえたものの、それ以降の学費と独り暮らしの生活費を自分で賄うためバイトに精を出していたら、三年目には進級し損ねた。
もともとやりたいことがあって入った大学でもない。これで生活が楽になるならと、割合簡単に退学を決めた。
それで学校のほうから連絡が行ったのだろう、母親がしばらくぶりに電話をかけてきた。幼い頃からの記憶通りに、「どうしてあなたは私を喜ばせてくれないの」と責める雰囲気で、この二年間、自分がどれほど心痛に悩まされてきたかを長々と聞かされた。
母はただ、親の反対を押し切ってまで自分の意思で入った大学をやめたのはいい加減だ、そんなことではいけない、と説教するのみで、安治がどんな考えや気持ちでそれを選択したのかには一切興味を持たなかった。
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