第440話

「まあ、叶い方も指定はできるけどな。結果だけを望んで過程はお任せにする場合だと、攻撃的なほうは無理のあるシチュエーションでもさっさと叶えてくれて、保守的なほうは常識的なシチュエーションを整えるのに時間がかかる、という傾向がある」

「ふうん。……まあ、常識的なほうがいいかなあ」

 ということは自分にとって『ヤギになる』は常識の範囲内なのか――とふと思う。

「そうだろう。別にお前が保守的な凡人だと言いたいわけではないんだが、『常識で考えてありそう』なシチュエーションほどお前は願いを叶えられる。一例が昨日の掃除機だ」

「うん? 掃除機?」

 たま子はにやっと笑った。

「お前が使ってたヤツハシを吸える掃除機――誰が作ったと思う?」

「あ――」

 途端にパズルのピースがはまるような、かかっていたモザイクが晴れるような感覚があった。

 心のどこかで訝しく思っていた。都合よく差し出されたハンディクリーナー。それは一体何のためにいつ作られたものなのか。何故雪柳やタナトスではヤツハシを吸えないのか。

 浮かんだ疑問を安治はねじ伏せていた。「これは所長に渡されたものだから間違いがない」という思い込みで。

「俺の――っていうかアガトンの――力だったんだ?」

 その通りだ、と言う代わりに大きく頷くたま子。

「あれはな、本当はただの掃除機だ。特殊な構造になっているとお前が信じるように、所長が一芝居打ったんだ」

「だから俺以外は使えなかったのか……」

 騙されたことに軽いショックを受ける。少しして気づく。

「あれ、でも、所長なら本当にヤツハシを吸える道具を用意できるでしょ? 別に俺にやらせなくたって」

「できるさ。だから焦ってなかっただろ?」

「ああ……」

 確かに、切羽詰まっている風ではなかった。それも、今だからこそ気づく違和感だ。

「俺を試してたのか……」

「っていうか練習だな。悪いように取るなよ。お前には適性があるってわかったんだ」

「うう、まあ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る