第161話
要次の愚痴はその後も続いた。助手の態度が悪い、それを黙認しているドクター連中もろくでもない、そんなドクターたちに研究室を与えている主任は賄賂でももらっているのだ、そうでなければただの馬鹿だ――と誰も彼もを批判する。
「――そんなに腐ってる職場なら、辞めたほうがいいんじゃないですか?」
共感する振りで皮肉を込めて言ってみる。要次は笑った。
「ああ、言ってみたいね。あいつら狼狽するだろうね」
安治は呆れた。きっと誰にも引き留められないに違いない。しかし要次は瞳に真剣な色を点している。
「――そうだね、そういうときかもね。今まで事を荒立てたくないと思って我慢してきたけど……いい人になりすぎたかもね。その結果がこれじゃ……」
尚も口の中でぶつぶつ言い続けるのに、安治は返事をするのをやめた。あまり関わりすぎて、友人認定されても厄介だ。
ふと目線を移すと、マネキンのように表情のないタナトスが退屈そうに遠い目をしていた。タナトスは要次の話に一切相づちも打たなかった。
「あの、俺たちそろそろ……」
出口側に座っている要次にどいてもらわないと安治は部屋を出られない。声をかけると、要次は「ああ」と気づいたようにタナトスを見た。
「そうだね、長々付き合わせちゃったね、仕事中なのにごめんね」
嫌味のない態度で気遣う風を見せる。
あれ、意外とまともなことも言えるのか――と安治が思ったのも束の間、
「新しいお人形の相手させられるのも、それはそれで大変だよね。まあそれしかできないんだし――じゃあ頑張って」
まったく悪気のない様子でそう言い、来たときと同じく唐突に去って行った。
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