人間に戻る

第259話

 部屋に戻って一人でテレビを観ているときに、天井から声が降ってきた。

「部屋に来客です。たま子が来ました。ドアを開けますか?」

 ――たま子?

 何の用事だろうと思いつつ「メェ」と頷く。じきにロックが開いて長身痩躯のボーイッシュな女性が顔を覗かせた。

「無事か?」

 慌てた様子もなく問いかけながら入ってくる。

「メェ」

「ああ、いい、座ってて。姐さんの帰りが遅いと言うんでな」

 ――姐さん?

 一瞬実姉を思い浮かべてから、それがおりょうのことだと気づく。

 帰りが遅いと、たま子のほうに連絡が行ったのだろうか? こっちには何も連絡がないのに……。

 思って、慌ててバッグを引き寄せる。端末が入ったままなのを忘れていた。

 気づいたたま子がバッグを取り上げる。

「何だよ、見てないのか? ファスナーくらいどうにか開けられるだろ」

 言いながら端末を取り出して見せる。おりょうからメッセージが入っていた。急な用事で帰れなくなったので、みち子班長に世話を頼んだという内容だった。たま子はその代わりなのだろう。

「世話って言っても、何をしていいのかわからないんだがな……何かあるか?」

「メェ」

 大丈夫だよ、と尻尾を振ってみせる。

 確かに少し困りはした。水を汲み置いていってくれなかったので、喉が渇いたときにどうしたものかと思ったのだ。しかし風呂場の水栓レバーが上下に動かすタイプだったので、自分で盥を移動させて水を汲むことができた。ヤギクッキーも箱と袋を破れば食べることができる。

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