第309話
いくらか久しぶりになってしまったので、埋め合わせのつもりで念入りに奉仕した。その間、手を繋ぎっぱなしというわけにはいかない。手を離すたび、勝手に動くのが目障りだった。左手はおりょうの身体を気に入ったらしく、余計なことばかりする。おりょうはとりあえず満足した様子だったものの、安治はあまり集中できなかった。
ことが済み、時刻も夜更けとなったところで問題にぶつかった。
四八時間の睡眠から覚めたばかりの安治は、到底眠くなどならない。おそらくあと一〇時間以上は眠気が訪れないだろう。
おりょうは律儀に手を握ったままいた。普段なら終われば自室に戻るのが、なかなかベッドから出て行こうとしない。目を閉じる気配もない。どうやらこのまま付き合ってくれるつもりのようだ。
気持ちは嬉しいが、自分のために寝不足にさせては罪悪感を覚える。
「まだ眠くないから俺、散歩してくるね。おりょうちゃんは寝てていいよ」
一方的に言い置いて、そそくさと部屋を出る。
あてがあったわけではない。長い廊下をぶらぶらと歩きながら、どこに行こうか考える。
時刻的には居酒屋だろうか。しかし様子もわからない初めての店に、一人で入るのには勇気が要る。かといって図書室やスポーツジムの気分でもない。もう少し刺激がほしいような。
「うーん……」
エレベーターの前でしばらく思案する。
ひとまず食堂に行ってみようか? コーヒーでも飲みながらぼんやりして……。こんな時間だけれど、意外と誰かに会うかもしれないし。例えば……。
ふと思い浮かんだのは、北条さんだった。
「あ」
――そうだ。
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