第336話
――炭酸が飲みたい。
無性にそう思った。コーラかジンジャーエールでも飲みながら、漫画を読みたい。
図書室の入り口を入り、ドリンクバーに寄ってから目的の棚を探す。
利用者は思ったよりもいた。広いので点在する机は一割も埋まっていないものの、昼間に来たときもそれくらいだった。そして昼間と同じく静かだ。夜だからといって酔って騒いでいる人はいない。
――ずっとこんななのかな。
二四時間同じ光景を想像して、ふと妙な気分になる。
大学生時代、ライブに行った後に帰り損ねて早朝の渋谷を歩いたことがある。静かだった。
都会と言えば常に賑やかなイメージを持っていたけれど、実は時間帯によってメリハリがあるのだと知った。太陽の位置と人の動きが連動している。
ここにはそれがないのだろうか――。
見回して気がついた。窓が一つもない。壁はほとんど書架で埋まっており、明かり取りもない。
室内は心地良い人工の光で満たされている。ちょうど昼間を再現したような。これでは意識して時計を見ない限り、今が正午なのか深夜なのかも不明だ。
――密室だな。
巨大過ぎて狭苦しさも感じないほどの。
タイトルは知っているけれど読んだことのない漫画が目についた。近くの六人掛けのテーブルには誰も座っていない。一巻を手にして腰を下ろしたところで、ふっと息をつく。
手は早速表紙をめくるのに、視線は宙を彷徨う。とりとめのない考えが次々に浮かんでは消えた。
今頃おりょうは何をしているだろう。ちゃんと寝ているだろうか――。
ゲームの中で、どうして自分の身体は怪我の治りが早いという設定になっているのだろう。何かストーリーに関係しているのだろうか――。
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