第377話
驚いたのも束の間、安治は胸の底にある少年の部分が興奮を訴え出すのを感じた。
――黒服組。
記憶がゲーム内のものに切り替わった。本社の保安担当員――通称黒服組――だ。
通常、マチの住人が彼らを見かけるのは、何かしらのトラブルが起きたときである。だから象徴的な黒服にはそれ自体に、怖い、不吉というイメージが備わってしまっていた。一方で、強く頼りになるという印象もある。
ファミリーが運営する教育施設である寺子屋の子どもたちにとって、黒服組は正義のヒーローだ。安治の記憶にもその一片が沈み込んでいた。直接的に助けられた思い出こそないものの、彼らがいてくれるなら安心――という感情がわいた。
一方で大きめのサングラスをかけた人物は、ごく無愛想に庇護すべき対象を眺めている。近くに危険が迫れば動くが、そうでない限りは何もすることがない。特に今は事態の把握のために派遣されただけで、特定の指示を受けていない。
タナトスの端末が鳴った。着信の表示を見たタナトスは、眉間に皺を寄せて迷惑そうな顔になった。
――エロスちゃんだな。
直感したのとほぼ同時に、タナトスが端末を耳に当てながら「エロス」と呼んだ。
自分の端末にも連絡がないかと、安治も画面を見つめる。するとタイミング良く、たま子からの着信が入った。ワンコールも待たせずに応答する。
「はい」
「安治か、無事か? タナトスと一緒だな?」
「うん、今図書室」
「場所はわかってる。黒服もそろそろ到着してるだろ」
「ああ、うん、いるよ」
「とある研究室から実験中の物質が漏れ出してしまったらしいんだ。どういう被害があるのか、作った本人にもわかっていない。とりあえず気をつけてくれ」
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