第378話

 驚きつつ、素朴な疑問が浮かぶ。

「気をつけてって、どう気をつけたら良いのさ」

「まあ気をつけようはないな。精々おかしなものを見たら近づかないとか。……あと、お前には見えていて他の人には見えないもの、お前にしか聞こえない音なんかもあるかもしれない。そういうのに気づいたら、声を出して周りの人に知らせるんだ。そうやって情報……ぎゃッ」

 ヒキガエルを押し潰したような声が会話を中断させた。慌てて呼びかける。

「たまちゃん? 大丈夫?」

 通話は切れていない。端末が何かに当たるような雑音がしばらく続いた後、たま子の声が復活した。

「……襲われた」

「え、え?」

 心配で身体が寒くなるのを感じた。

「何? 何に襲われたの?」

 問いかけるも返事はない。再び雑音がすると、今後はプツッと通話が切れた。

「どうしよう……みち子さんにでもかけたほうが良い?」

 先に通話を終えて待っていたタナトスは、安治の問いに首を横に振った。

「みち子、忙しい、おそらく。電話できない」

「ああ、そっか、そうだよね……」

「エロスが来る」

「ああ、うん、そうだろうね……」

 辺りを見回す。視界に入るエンケパロスも黒服組もその他利用客も、同じように辺りに視線を配っていた。

 聞いたことを反芻する。実験中の物質が漏れ出した。どんな被害があるかわからない。そしてたま子が「襲われた」……。一体どんな形状のものに。

 スピーカーから流れる音楽はだいぶ小さくなっていた。そのため人の話し声が先ほどより大きく聞こえた。そこここでひそひそと話し合う声が、一つの大きなざわめきになる。

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