第379話
突然、入り口のほうから絹を裂くような女性の悲鳴が上がった。それに驚いた人たちがわっと声を出す。
「あれは」
と素早く反応したのはエンケパロスだった。今まで冷静を保っていたのが、急に慌て出す。落ち着かない様子で四方八方に顔と身体を向ける。
「エンケパロスの声」
タナトスが言った。
「え?」
言われて思い出す。存在感のありすぎる悲鳴は、以前にも聞いた覚えがある。避難訓練のときだ。
やはり女性型のエンケパロスが叫んだのだ。一緒にいたたま子が教えてくれた。あれには周囲に危険を知らせる警報の役目があるのだと。
続いて第二、第三の声も上がった。すべて別の個体らしく、声の出元が違う。その位置は入り口から内部へと移動している。それに合わせるように、入り口のほうから奥へと押し寄せてくる人たちの姿が見えた。
――何かが入って来た?
安治は慌ててタナトスの隣に移動し、庇うように背中に手を回した。
――逃げたほうが良いのでは?
二人を見張っているらしいサングラスの黒服を見遣る。しかし相手も戸惑ったような素振りをするだけで、逃げろという合図はしてこない。
とにかく入り口から離れたほうが良いだろう。他の人も奥に向かって動いてきているのだし。
そう判断し動こうとすると、予想よりずっと素早い動きで回り込んだ黒服に阻止された。
「まだどこが安全か確認されていない」
苛立ったような低い声で注意される。
次の瞬間、近くで絶叫が上がった。思わず両手で耳を押さえる。声の主は、安治たちを誘導すると言ったエンケパロスだった。
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