第385話

 同時に悲観的な思いが浮かんでいた。図書室を出られたとして、はたしてみち子の部屋まで辿り着けるのだろうか。エレベーターの中も浸食されていたなら、その時点でゲームオーバーだ。

 ――連絡してみようかな。

 端末を取り出す。と、そのタイミングで着信が入った。北条さんからだった。

「あ、北条さん、無事ですか?」

「無事じゃなかったら電話できねえだろ」

「まあそうですけど」

「待ってろ、今着くから」

「え?」

 それだけ言って一方的に切れた。

 待ってろという言葉の解釈に安治は戸惑う。安全とは言い切れない場所で、どれだけ待てば良いのか。どの程度の範囲なら動いても構わないのか……悩み始めたところで、目を引く男性が入り口を入ってくるのが見えた。

 均整の取れた長身にさり気なく洗練されたファッションを纏い、ウェーブのかかった髪をなびかせ颯爽と歩いてくる。ホラー映画が唐突にファッションショーのランウェイに変わった。

「本当にすぐだな」

 感心しつつ呆れる安治の横でタナトスは、

「う? 北条さん」

 と首を傾げる。

 ともあれほっとした安治は「行こ」と促して歩き出した。その安堵が油断を招いた。

「うげ」

 足首に巻きつかれたと認識した瞬間におかしな声が出る。頭からさっと血の気が引いた。タナトスとは反対側から忍び寄ってきた影に気づかなかったのだ。

 かまわず歩き出したタナトスを「ちょちょちょ」と呼び止める。

 タナトスは「う?」と振り返った。しかし不思議そうに見つめてくるだけで、手を差し伸べようとはしない。

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