第251話

 そうこうしているうちに、気づけば玄関前だった。ちょうど出てくる人がいたので鳴きつく。

「メエェェ、メエェェ」

 ――すいません、これ取ってください。

 しかし相手は笑って頭を撫でるだけで、角のネギは取ってくれない。

「可愛いね」

 の一言が却って癪に障る。

 ――ネギが刺さってて何が可愛いものか。

 さっさと玄関に入っていくタナトスを追う。

 建物内ではさすがに走らない。歩いているところを後ろから太ももめがけて頭突きをする。当たりはするが、進行方向が同じなので大したダメージは与えられない。

 軽くつんのめりながらタナトスが諭すように言う。

「安治、ダメ」

「メェ!」

 原因を作ったのは誰だと思っているのか。

 憤慨して尻尾を振ると、通りかかった人が見て嬉しそうに寄って来た。

「あら、可愛い」

「へえ、面白いわね」

「ネギの匂いがすごいな」

 安治はその人たちに取ってもらおうと必死に見上げる。

「メェ、メェ」

 しかし伝わらない。可愛い可愛いと言われるだけだ。苛々して地団駄を踏む。

 そこへたま子がやって来た。ネギを一目見て吹き出し、「何だそれ」と言いながら簡単に取った。

 安治がほっとしたのと同時に、見ていた人たちに申し訳なさそうな気色が浮かんだ。

「そういう種類じゃなかったのね……」

 新しい研究所産だと思われていたらしい。それほど違和感がなかったのだろうか。

 ――一目見ておけばよかったな。

 取ってもらった後になって、そんなことを思う。

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