第250話
再び農園と庭園の境目まで来たところで、タナトスが「あ」と言って農園のほうへ駆け出した。何かを拾う仕草をした後、すぐに戻ってくる。
「メェ?」
――なんだ?
タナトスは拾ったものを身体の後ろに隠していた。顔にはいたずらっぽい笑みを浮かべている。
嫌な予感がしつつ、先を急ごうと背を向けたところで襲われた。両方の角に何かをすぽっと被せられたのだ。
「メェ?」
――何すんだよ。
首を振っても落ちない。何なのかはすぐにわかった。漂ってくる刺激的な匂い……長ネギだ。
「メェ!」
――おい、ネギ刺したな?
振り落とそうと、四肢を踏ん張って必死に首を振る。取れない。タナトスはそれを見て嬉しそうに笑っている。
「ぴったり」
「メエェェェ! メエェェェ!」
――誰か取って! 馬鹿、タナトス!
よく響く鳴き声を上げる。しかし誰も来てくれない。近くに誰もいないのだろうか。
ケラケラと笑い続けるタナトスに殺意がわく。反射的に頭突きをかましたものの、今回は避けられた。正面からでは分が悪い。
背後に回り込む。察したタナトスは颯爽と駆け出した。長い髪を靡かせながら庭園の迷路のような道を軽やかに全力疾走する。負けじと安治も四つ足で追いかける。
曲がり角でスピードが落ちるたび、追いついて頭突きを試みる。当たらない。体勢を立て直している間に距離を開けられる。その繰り返しだ。効率が悪いとわかっていても、腹立たしさから攻撃を諦められない。
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