第77話
――そもそも、自分のものという概念がないのかも。
財産はすべて共有で、一定期間借りるだけなのかもしれない。
ソトにも確か、そんな思想で集団生活をしている宗教団体があった気がする。信者だけで「村」を作り、閉鎖的な生活をしているのだ。
「……ん」
――ムラ。
――マチ。
トイレに寄ろうとした足が止まる。嫌な想像が浮かんでしまった。
本当にここは人の記憶を操れるようなすごい研究所なのだろうか。日本ではない場所なのだろうか。実は単に誘拐されて嘘を吹き込まれているだけと考えたほうが現実的ではないか?
――でもなんで俺が……?
問いと同時に答えが浮かぶ。安治の実家は資産家だ。父親が地方議員のためスキャンダルを嫌う傾向もある。犯罪者からしたら狙い目に見えたとしても不思議ではない。
思いついたが最後、それが真実のような気がしてきた。もしそうなら、大がかりな芝居に呑気に付き合っている場合ではない。
――連絡を取らなきゃ。
思うと同時に端末をいじっていた。これは自分のスマホではない。過去のデータがそのまま残っているはずはない。頭ではそうわかるものの、他に行動の選択肢が浮かばなかった。
画面下にある円いボタンを押す。
真っ黒だった画面に明かりが点る。しかし、暗い。
「え?」
スマホの明るく色彩豊かな画面を想像していた安治は驚く。
画面全体は真っ黒で、そこにいくつかの項目らしき文字が白抜きで浮かんでいる。それだけだった。
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