第78話
「電話、テキストメッセージ、連絡先、計算機、メモ、設定……」
思わず読み上げる。それらの文字はそれぞれ横幅いっぱいに表示されていて、アイコンの形すらしていない。
縦や横にスワイプしてみる。動かない。嘘だろ、と執拗に引っ掻く。
「――これだけ?」
相手のいない問いかけには焦りと苛立ちが含まれていた。こんなの、スマホではない。
画面と本体をあちこち触り、何もないのに絶望して一時放心してからやっと気がついた。
アプリストアがないからアプリを増やすことができない。それに――ブラウザがない。
――ブラウザがないということは――ネットができない?
目の前が暗くなった。ネットが繋がらないとすれば、世界から断絶されているのと同じではないか。ソトの情報を手に入れることも、自分の異常な状況を発信することもできない。
写真もないし――と気づいてひっくり返す。スマホにはあって当然のカメラのレンズがついてなかった。これでは携帯電話にも劣る。
道理で軽いはずだと今更納得する。大きさはスマホと同じくらい、なのに重さは半分もない。技術力の違いで軽くできたわけではなかったのだ。
「何にもできねえじゃん」
嘆く一方で冷静な思考も働いていた。
――だからWi-Fiが必要ないんだ。
それが即ちネットが繋がらないという意味だとは思わなかった。
いや、可能性は感じ取っていたのかもしれない。認めることはできなかっただけで。その最悪の事態と直面せざるを得なくなった。
結果――安治は項垂れた。
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