第276話

「さあ、何とも。でも思い返すと、その人が冷蔵庫の話をしていたことはあるんです。子どもの頃に遭遇してから気になっていた――とか。普通、みんな、冷蔵庫の話題は避けるものなんですが」

「避ける? なんでですか、話をしていると寄って来るから、とか……?」

 百物語のようだ。たま子が半笑いで首を振る。

「見える人と見えない人がいるからな。単純に、話が合わないから他人にはしないんだ。見えない人に話すと、却って見たがる人も出てくるし」

「ああ、それは、そうだよね」

 安治だって今回、実物を見ずに「冷蔵庫が現れた」と聞かされたなら、一度見てみたいと思ったに違いない。

「だからあんたも」

 みち子が桜色のマニキュアを塗った指で安治を指す。

「興味を持ったりしたらダメよ。ちょっとした好奇心が命取りになるんだから。あんたは冷蔵庫に遭いやすい体質みたいだし」

「そんな体質ある?」

 思わず出た反射的な呟きに、真面目な返答が返る。

「冷蔵庫に遭う確率は人によって違いますからね。個人別では、一生に一回も見ないか一回だけ見る人が過半数で、反対に、年に五回以上見る人も少数います。全体を平均すると、一〇年に一回程度と言われています」

「ひょっとしたらもう、標的にされてるのかもな」

 やや気遣わしげな声でたま子が言う。

「標的って……意志があるみたいな」

 怖気を覚えて半笑いで言うと、三人はそれぞれ曖昧に頷いた。

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