第277話

「何もはっきりしたことは言えないのですが、おそらく意志はあるのではないかと」

「体感だけどな。見える人はみんなそう言うよな。見えるようになると連続で見るようになる、とか」

「私は見たことないからわかんないわ。別に見たいとも思わないから、冷蔵庫チームの気持ちも」

 興味なさそうに言い放つとみち子は、クッキーの入った大きな缶を開けて頬張り始めた。置いてある位置からして彼女専用らしい。たま子が呆れ気味に目を遣る。

「姐さんは食い物に欲を奪われてるから……」

「やだ、たま子、『食い物』なんて言わないで。『食べ物』でしょ」

「注意するの、そこなんですか?」

 微笑ましいやりとりを安治は黙って眺めた。それよりも気になることがある。入室したときから気になっていたのだが、誰もそれについて触れてくれない。待っているのにも痺れが切れた。

 口を開くより一瞬早く、勘づいたたま子が訊く。

「どうした? 顔色悪いぞ」

 三人の視線が集まる。安治は背中に冷や汗を覚えながら、顔にはぎこちない笑みを浮かべた。

「あのぅ……それって、みち子さんの……ですよね?」

 言いながら指差したほうを三人が見る。じきに不思議そうに視線を交わし合い、安治に視線を戻す。

「それって何のこと?」

「だから、それ。……みち子さん用のケーキとかプリンとか入ってるんですよね?」

「……何を言ってるの?」

 怪訝な表情になったみち子と対照的に、察したらしいたま子が顔色を白くする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る