第278話
室内には出入り口のある壁に沿って小さなキッチンが設えられている。コーヒーメーカーや電子レンジ、小型の冷蔵庫もそこにある。それは共有で使うものだろう。
前回来たときにはなかったみち子のデスクの横にある白い冷蔵庫は、だから、みち子のおやつ専用に新たに用意されたものだ。
部屋に入った瞬間から安治はそう解釈していた。しかし時間が経つごとに考えが変わった。
その冷蔵庫――壁と同じ色なので気づきにくいが、何だか透けているような――。
「――それ、見えないんですか?」
安治の言葉と同時に動いたのはたま子だった。安治が指差した辺りに駆けつけて手を振る。
「え? あれ?」
たちまち冷蔵庫が消えた。
「消えたか?」
本人には見えていないらしく安治に確認してくる。
「うん――でも、何で? そういうもの?」
見えない人が触ると消える性質なのだろうか。
「いや」
面白くなさそうな表情で否定したたま子と対照的に、理解が追いついたらしいみち子が面白そうに言う。
「たま子はそういうのに強いのよね。霊的な能力があるって言うのかしら。まったく見えない私とは大違い」
「おそらくたま子くんに冷蔵庫が見えないのは、そういう形の防衛本能なんでしょう。今までのところ、見えない人には害がないと言われていますから」
「ボクは見えた上で祓いたいんだがな」
「え、そういう能力があるんだ? すごいね」
思わず安治の目が輝き声が弾んだ。今まで霊感の強い人と出会ったことがない。まるで漫画の世界だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます