第179話
ともかくブースに入るよう身振りで促される。安治は途端に緊張した。
抵抗もできず踏み入れると、中には円柱型の壁に合わせて同じ形のベンチが設置されているだけだった。もっと仰々しい装置を予想していたので拍子抜けする。
「まだ専用の椅子が完成してないんだ。扉を閉めると気体が充満して数秒で意識を失う。倒れると危ないから、距離を空けて座るか寝転がるかしてくれ」
そう言われたので、二人は反対の位置に座って背中を壁に預けた。
戸口が閉まる直前に安治が思いついて訊く。
「これ、ゲームの中で死ぬことってあるんですか?」
ゲームの中で死んだら現実でも死ぬ――というのでは困る。
「ああ。あるが、大丈夫だ。死んだらその少し前からやり直しになる。その際は一回、目が覚めるからな」
「ゲームの中で死んでも、実際の自分には関係ない?」
念を押して訊く。北条さんは頷いた。
「大丈夫だ。何をやってもこっちの世界には影響がない。好きなように楽しんでくれ」
もしその言葉を覚えていられるんなら楽しめるんだけど――安治はやや複雑な気分で頷いた。
「じゃあ閉めるぞ」
言うが早いか扉が閉まる。その瞬間に強い恐怖が心臓を捉えた。
やっぱりやりたくない――背中を壁から離したところで、記憶が途絶えた。
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