第25話

「所長?」

 小太りでしわくちゃな白衣に無精で延びた風の長髪を垂らしている様は、いかにも研究に没頭する研究者らしく見えた。それはともかく。

「所長って、何の?」

 素朴な問いかけをした途端、全員が脱力するのを感じた。

「そこからか……」

 戸田山が小さく漏らす。

「あの、いつ知り合ったんですか?」

 慌てて別の質問をする。しかしこの質問はさらに受けが悪かった。

「あのねえ……」

 みち子がどんよりした目を向ける。

 やや唐突に、おりょうが質問を挟んだ。

「安治さん、カレーを作ったのって何月何日ですか?」

「え? ……三月の」

 日付は覚えていない。下旬だったとは思う。おりょうは頷いて言った。

「今日は四月一五日です」

「……ふうん?」

 では半月ほどしか経っていない。ひと月前に引っ越したという話と矛盾する。

「そのアパートというのはどこにあったんですか?」

「どこ。……東京の」

「は?」

 言いかけたところでみち子と戸田山が仲良く目を剥いた。

「東京? 何言ってんの?」

 みち子のその問いは自身に向けられていた。言い終わる前に立ち上がり、ソファから離れてイライラと爪を噛む。その目は安治に向けられていない。戸田山も同じく、口元に手を当てて考え込む素振りをした。

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