第26話
何か動揺させてしまったらしい。
――『東京』で?
言ってはいけない言葉だったのだろうか……と戸惑う安治に、おりょうが冷静に質問を続ける。
「東京に住んでいらっしゃったんですか?」
「あ、うん。……大学に通ってたから。やめちゃったけど、一人暮らししてて」
「それでアパートなんですね」
「うん」
おりょうは頷いて、所長に視線を送った。渋い表情で頷き返す所長。
「お辛いでしょうけど、ショックを受けないでくださいね」
おりょうは手を伸ばして恋人の頭を撫でた。人前でいちゃつくのが苦手な安治は身を引きかけたが、告げられる内容を予想して見つめ返した。繊細な手が頬に当てられる。
「安治さんが生まれたのは、この研究所です」
「…………」
何を言われたのかが理解できず、リアクションもできない。
「生まれてからずっと、ここで育ちました。研究所の敷地から出たこともありません」
「……敷地から出たことがない?」
――何を言ってるんだ。
溜め息が聞こえた。所長だった。どこか悲しげな声で告げる。
「安治、あなたのその、大学に行ってたとかいう記憶はね……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます