第221話

「電話って、これか?」

 バッグの中身を見ていたたま子が小型のアバカスを持ち上げる。

「ああ、うん、それ」

「これ――『スマホ』だな」

「え?」

 たま子の言に、二人が同時に反応する。

「スマホって、ソトの?」

「見てわかるわけ? 見たことないのに」

「見たことはなくても……だってこれ、マチの端末じゃないぞ。マチのはマチの中でしか使えないしな。ソトで電話ができるってことは、ソトのなんだろ」

「あ……そっか」

 安治は自分の端末を持っていない。一人っ子の琥太朗やたま子は持っているので、それが使えるような気でいた。

「あとこれ、『財布』だ」

「え」

 再び二人同時に声を上げる。革製のしっかりした四角いポーチを渡された琥太朗は、中を見て「うわあ」と歓声を上げた。

「これ……お金?」

 収納されていた数枚の紙片を取り出して広げる。テレビではよく見るので、マチの子どもでも存在は知っている。しかし実物を見るのは初めてだ。ライトで近くから照らして、安治も息を飲んだ。

「こんな……きれいなんだ……」

 薄く柔らかい紙なのに、恐ろしく繊細で込み入ったデザインが施されている。特に色使いが細やかで、どうしてこんなに凝る必要があるのだろうかと不思議に思う。

 お金は何かと交換するための道具で、それ自体に価値があるわけではないという認識だった。しかし、それ自体が十分に高級そうではないか。

 ファスナーで仕切られた部分にコインも入っていた。一番大きい、淡い金色のコインが特にかっこいい。琥太朗と安治は交代にしげしげと見つめた。

 対してたま子は、それが汚物であるかのように目を背け、鼻を手で覆っていた。

 …………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る