安治、ヤギになる

第222話

 …………。

「はッ?」

 ちょうど夢から覚めるようにゲームから覚めた安治は、起き抜けに変な声を出した。

「どうした?」

 スピーカー越しに北条さんが問いかけてくる。

「今ので終わり?」

 何だか中途半端ではないか。

「時間だからな」

 返事はそっけない。そうか、時間制限があるんだ……と思い出す。

 ゲームと現実の区別ははっきりついた。ゲーム内にいるときはそれが現実に感じるが、起きると、夢を見ていただけに感じる。臨場感は瞬く間に薄れて、もう遠いできごとのようだ。

 反対側に座っていたタナトスも同時に目を覚ました。長い白髪と灰茶の瞳を見た瞬間に思わず言った。

「タナトス、なんでうちの家族殺すんだよ」

 言う瞬間には怒りがわいていた。言い終わる頃にはそれが可笑しさに変わっていた。タナトスの行動は役としてのもので、本人の意志ではない。

 タナトスは寝ぼけているような不満そうな顔で「うう……」と呻いた。

「澄子は? 澄子も殺したのか?」

 結局姿も見なかったなと思いつつ問う。

「澄子……殺してない」

 長ったらしい髪を掻き分けながらタナトスが呟く。

「え?」

 聞き返したとき、北条さんの声が割って入った。

「おいおい、あんまり話すなよ。ネタバレになるぞ」

「ああ、はい……」

 ブースの扉が開いた。二人は思い思いに伸びをしたり身体を動かしたりしてから外に出る。こちらの世界では二〇分なのだろうが、数日間眠っていたかのように身体も頭も重い。

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